07月31日 15時39分
少年のこの二週間については、性的な行動はとくに見られなかったということだが、今回の面接では、学校での少年の奇界な行動の数々の話題にされることとなった。
ほぼ、初回面接で聞いたことの拡大再生産である。
その種の話題になると、少年が(母親も)暗い表情に早変わりするのも前回同様である。
それでも、藤田先生や担任は、「少年の問題をセラピストに教えにくる人」の役回りをいまだ演じ続けている。
しかしこれは、学校を代表した教師としての社会的立場と、問題を語り合う場という、治療のもつ一般的なイメージとに拘束されたものであるにちがいない、セラピストはそう考えた。
だが、もう前回のような腐った空気を味わうのはご免被りたい。
幸い、セラピスト自身はすでに、「少年は問題児」との枠組みからずいぶん自由になれていたようである。そのぶん、起動は早かった。
セラピストは、先生方の問題の報告を一、二分で中断させ、学校での少年のようすについて、細かなよい変化が生じていないか、しつこく問いはじめた。
そして、何度かの「とくにありませんね」をくぐりぬけた後、やっと目標地点に到達しそうになった。
「そういえば……」藤田先生が、なにかを思い出してくれたのである。
「学校に、この子のことを心配してくれている事務員さんがいるのですが、彼女が、最近この子が笑顔を見せるようになったようだと言ってましたね……」
一つでも見つかれば、セラピストはスッポン状態なのである。結果、どんな些細なことでも、その話題は風船状態となる。
そして少年の(母親)も顔はふたたび柔らかくなっていった。
興に乗った感じで、担任も一つ思い出してくれた。
「そういえば……、体育の授業でソフトボールをしているのですが、いつもはまったくやる気なさそうにチンタラしているこの子が、昨日は打った後、めずらしく一塁まで全力疾走しましてね。結果はアウトだったんですが、悔しそうに一塁ベースを蹴りましてね。いやァ、なかなかガッツありましたよ」
新たなネタだ。セラピストはしつこく関連質問を繰り返す。風船はますます膨らんでいく。
少年の(そして母親の)表情に晴れがましささえ現れる。
面接室全体の空気が、深刻からくつろぎへ、絶望から希望へと、ドンドン変わっていくことが直肌に感じ取れるこのhere&now。セラピストの最も好きなひとときである。
ひとしきり学校の話題で盛り上がった後、セラピストは母親にも尋ねてみた。
「おうちでもなにか小さな変化に気がつきませんでしたか?」
ところが意外なことに、それまで表情柔らかく聞いていた彼女は、みるみる顔を曇らせてしまった。
そして機械的な感じで突き放したのである。
「なにもありません」