07月30日 15時43分
やっと我に返ったセラピストは、あわてて「この子の長所はなにか」などという、ちょっとダサイ質問をした。
藤田先生は少し考えて、少年が絵が得意であることを教えてくれた。
「そうなの?絵が得意?」
セラピストの問いに、少年が少しはにかんだような笑みを見せた。嬉しい初コンタクトである。が……。
「あのゥ、先生にお話しておきたいことが……お母さん、いいですよね」
藤田先生がセラピストと少年の蜜月の始まりをさえぎり、母親の許可を取ったうえで新しい情報を提供しようとした。ありがたいことである。
しかしこういう場面、「少年は問題児」との枠組みにそった情報が提供されることにほぼまちがいない。
しかしここはいったんその「枠組み」に戻ってみよう。
藤田先生からの新しい情報は次のようなものであった。
……問題の原因は、母親が性的な面で厳しすぎるのが関係しているのではないか。
母親はますます恐縮したようにうなずいた。
さらにセラピストが母親に意見を求めると、母親は、「このように息子が世間を騒がせているのは自分の育て方が悪かったためであり、大いに反省している」と、気の毒なくらい身を縮めて語った。
そして、その罪を懺悔するかのように、母親自身の性的な問題を明るみにしはじめたり、少年の多くの問題を繰り返し陳述しようとしたのである。
その間、少年は悲しそうに視線を床に落としていた。